仙腸関節

仙腸関節は骨盤にある外側の腸骨と中心にある仙骨とを結ぶ関節で左右1つずつあります。この関節は強靭な靭帯により結合され、わずか3-5mmしか動かないと言われています。
しかしこの関節の靭帯に強い力がかかる(例えば尻餅、前かがみで重いものを持つ、妊娠・出産)ことにより靭帯を損傷すると、その後より腰痛を含め様々な症状が出てくると考えられています。その理由として靭帯は血流が少なく一度損傷(伸びることをイメージしてください)すると、血流が豊かな筋肉・骨などとは異なり回復が難しいです。その後仙腸関節が必要以上に動くことにより症状が出現すると考えています。また脚の長さがもともと異なる方は、仙腸関節に均一に体重がかからないため症状は出現しやすいと考えられます。

仙腸関節由来の症状として臀部痛、下肢のしびれ・痛み以外に重要な事として、調子の悪い側(右なら右側)の上下半身の関節や筋肉のが固くなることが考えられます。仙腸関節は一度痛めると、その後は座っている・寝ることにより症状は悪化するため、起床後・30分以上座ったのちに症状が悪化する場合、仙腸関節が関係している可能性が高いと考えられます。

また変わった特徴として、仙腸関節の調子の悪い側の移動することがしばしばあり、その際は今までとは左右逆の仙腸関節の調子が悪くなり、逆にもともと調子が悪かった側は症状が軽くなるといった振り子のような性質を持っています。

当院に診察に来られる慢性痛をお持ちの方を拝見すると、リウマチの診断がついた方を除いたほぼすべての方が、この仙腸関節が症状に関与していました。

残念ながら現在の医療ではこの仙腸関節の治療はまだまだ知れ渡っていないため、ほとんどの医療機関ではこの部位に対する適切な治療が行わてはいません。腰痛、頚部痛、膝痛などの長年の痛みで治療を行っても症状が改善されない人はぜひ一度お越しください

どのような症状におすすめか?

  • 頭痛 (肩こりや背中のはりがある方の)
  • 顎の痛み(一般的な顎関節症といわれるもの)
  • 耳鳴り めまい(耳鼻科ではっきりとした原因がないもの)
  • 頸部の痛み(急性の寝違えから慢性まで)
  • 肩から腕への痛み、または肩こり 肩の腫れ
  • 肘の痛み(いわゆるテニス肘や野球肘)
  • 指の痛み(ヘバーデン結節など)
  • 背中の痛み(ズキンズキンとした痛み)、背中のはり
  • 腰痛(ただし仙腸関節が調子悪くても半分くらいの人にしか症状は出ません)
  • 股関節の痛み
  • 太ももやふくらはぎのはり、痛み、痺れ
  • 膝の痛み、腫れ (成長痛といわれるものも)
  • こむらがえり(仙腸関節が固くなり、骨盤の動きが低下し筋肉がひっぱられていることにより)
  • 足の痛み、腫れ(少しの捻挫、打ち身が1か月以上続く場合)(頻回の成長痛といわれるもの)
  • ガングリオン(ゼリーが貯まる良性の腫瘍) ただし仙腸関節の悪い側

  などがありました。

診断方法

その症状が仙腸関節由来かを判別する方法としては、

身体診察   下枝の動き・抵抗感・重さなどを確認 特に左右差が無いかを確認します

があります。レントゲン、CTでは今までの仙腸関節の状態がわかりますが、

仙腸関節の障害(=固さ)は左右に移動をしますので、それらの画像では当日の状態はわかりません。

また残念ながらMRIでは有効な情報は得られません。

また仙腸関節を押した際の痛みはない場合もしばしばありますので、押した痛みが無くても

仙腸関節の状態が悪い方はたくさんいます。

治療方法

仙腸関節に対する治療は何種類かあります。

1.薬物治療 急性期の1-2週間くらいの期間 炎症止め・痛み止めの薬を使用

2.注射治療 急性期の痛みが特に強い、例えばぎっくり腰の時

3.生活習慣指導

4.理学療法 理学療法士が固くなっている仙腸関節を治療します 予約治療となります

5.物理療法 牽引をおこなったり、干渉波を用い緩めます。

6.ストレッチ指導 仙腸関節を緩めるストレッチを指導します。

これらの治療を組み合わせて治療を行っていきます。

患者様それぞれによりあう治療が少し違う場合がありますので、理学療法と物理療法に関しては両方を体験してみると良いかと思います。

(申し訳ありませんが健康保険の関係で、同じ日に両方の治療はできません)

当院独自の治療としては、生活指導、理学療法、ストレッチ指導を行っています。

実際の症例

代表的な症例を挙げますと

症例1 80歳代女性 主訴:腰痛

10年以上前より腰痛があった。腰痛は起床時や長く座ったあとやまたずっと立っていると痛みが出現する。

レントゲンでは側面は省略しますが、こちらは立位の写真です。写真の左側が右足となるように写っています。御覧の通り、骨盤が右側が下がり、左大腿骨の高さが右に比べ高くなっているのがわかります。

診察では仙腸関節の調子が悪いのがわかりました。

治療

仙腸関節に対する理学療法を行い、症状は軽快しました。また右足が短いため、骨盤が傾き仙腸関節に負担がかかりやすいため、その後右足にインソールを作成しました。その後立っているときの痛みも出現しにくくなったようです。

ある程度の脚の長さの差がある場合は、市販のインソールでは対応が難しいため、当院では足形をとりインソールを作成しています。(健康保険で)

-その後の経過-

乗り物などに長く座ると悪化するため、症状が悪化時に治療を継続していました。来院後より半年後に右手4指の第1関節の痛みを訴えました。

その時のレントゲンです。

レントゲンでは両手の第1関節の多くの隙間が減り、いわゆる ヘバーデン結節の状態を示しています。この場合の一般的な治療は塗り薬や痛み止めを塗ることが多いですが、当院ではその原因が関節の固さからくると経験的にわかっているため関節の固さを取り除くため仙腸関節と手の関節の理学療法を行います。実際この患者様はその場で症状は軽快しました。

まだまだ続きます。

手の痛みから約半年後に今度は右肩が上がりずらく、腫れてきたとの訴えで来院されました。

その時のレントゲンです。

 

右肩の関節(上腕骨と肩甲骨)は狭くなっています。また右肩周囲はぷよぷよと腫れ水が溜まっていました。また肩甲骨周囲の筋肉も固く岩のような状態でした。

治療

当初は腫れもあったため、水を抜き強力な炎症止めであるステロイドの注射を行いましたが、たびたび再発したため仙腸関節と肩関節の理学療法を行いました。

翌週には晴れは随分減り(今回は水抜きはしていません)、肩の痛みは軽くなりました。その後2-3回1週おきに治療を行ったところ、症状はすっかり消失しました。

このことより肩の腫れ、痛みも仙腸関節が関係している事がわかります。

 

その後まだまだ続きます。。。

 

肩が良くなった1か月後に右膝が痛くなったとのことで来院。痛みは動き始め、階段を上り下り時に出現します。

同じ右側でしたので、(仙腸関節の調子が悪い側に症状が出やすいため)

レントゲンはとらずに仙腸関節から治療を行い、その場で症状は消失しました。

 

まとめますと、調子が悪い仙腸関節がある側(右なら右半身)に自然と症状(頚部痛、肩痛、膝痛、股関節痛、踵部痛など)が出る場合は、仙腸関節の悪化によって痛みのある関節・筋肉の周囲の固さが出現し腫れ・痛み・痺れの症状が出る可能性があるということです

(レントゲンを掲載するにあたって、患者さんには同意を頂いております。)

症例2 70代女性 主訴 腰痛 左肩痛 耳鳴り(左)

1年前に左肘を電車のドアに挟まれ受傷。その後より左肩の痛みが出現。その年の8月に階段で転倒してから腰痛、左の耳鳴りが出現。

初診時のレントゲンです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レントゲンでは軽い側弯を認めます。

診察では左仙腸関節の調子が悪い(=固い)のがわかりました。

治療

仙腸関節に対し理学療法を行いました。

治療後、腰痛、左肩の痛み、耳鳴りが軽くなったとのことでした。

2週間後   ・・・ 耳鳴りは良くなっている。左肩と腰はまだ痛みがある。

その後1週間に一度の割合で治療を行う。

初診後1か月 ・・・耳鳴りがならなくなる日も出ている。そういえば肩と腰は少し痛みがあるけどほとんど気にならない。

まとめますと、左側の仙腸関節の障害があり、腰痛、同側の肩の痛み・耳鳴りが出現した症例です。

 

症例3 40代女性 主訴 腰痛

約1年前にしりもちをつき受傷。当初は殿部痛が出現。

初診時(1年前)のレントゲンです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正面のレントゲンでは股関節に軽度の臼蓋形成不全と

仙腸関節のすき間が狭い印象です。

側面では尾骨の骨折が疑われます。

治療経過

3週間くらいの経過観察でお尻のすぐ上の部分の

痛みは無くなってきましたが、その後座っていると

腰痛や背中のはりが出るとのことで相談がありました。

診察すると下枝の動きに左右差があるため

仙腸関節障害と診断し、理学療法、生活指導、

ストレッチを指導し、症状は改善しました。

このように仙腸関節は骨盤へのダメージ(尻もち、

出産など)により仙腸関節にある靭帯が伸び、その後は座っていたり寝たりする(つまり起床時)と症状が出ます。

 

 

 

治療間隔

 

若い方は数回の理学療法で症状は改善し、中には一度の治療で症状が消失される方もいらっしゃいます。

ただし年齢を重ねたり、関節の変形が出現してくると治療しても徐々に戻る傾向があります。そのような方は1週間に1度から2-4週に1度のペースで治療を行っています。ウォーキングやストレッチを毎日される方ほど、治療間隔は長くなる印象ですので、ある程度症状が改善してきたら定期的な運動の習慣やお伝えするストレッチを身につけることをお勧めしています。

仙腸関節の治療料金

当院では施設基準として運動器リハビリテーション(1)を取得していますので、健康保険の範囲で治療は可能です。ただし介護保険を取得されている方に関しては、健康保険上の規制で当院での継続的な治療に限度があります。

その他の注射、薬物療法等はすべて健康保険内の治療となります。

また理学療法士の治療で十分効果が上がらない場合、医師が直接治療を行う場合がありますが、その場合時間がかかる治療であるため予約制にしております。その際予約料として2000円をいただいております。この予約料は厚生労働省が定める『選定療養費』となり、全て自費となります。ご了承下さい。

また初診時に医師による仙腸関節の治療を必ず希望される方も予約をお取りください。